九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

本から貰うもの

実家の法事で、小学生がいる親戚三軒に「一家に一冊、吉四六さん」と、挿絵も楽しい吉四六さんのとんち話を配った。吉四六さんは、実家のある臼杵に伝わる「こしきい」お百姓さんの話。頓知話が面白く、子供の頃、年寄りに話をせがんだものだ。 親戚の子供た…

俳句、始めました。

5年前、仕事を整理して名刺も廃棄したとき、自分のことを説明するのに困るので、肩書きを「文学修業中」とした。 文学修業は、読書、詩、エッセイ、短歌と手当たり次第にやっている。仕事と違ってお金にはならないがストレスがない。さらに一年前から俳句も…

詩のように美しい1日

習慣にしている早朝読書で、ナタリー・ゴールドバークの「魂の文章術」を読んでいたら「詩のように美しい一日を書き留めよう」という文章があった。この本は何度も読んだのに気がつかなかった。詩のように美しい一日とはどんな一日だろう。 朝食をベランダで…

旅の途中

リビングの一番見やすい場所に、大きな世界地図を貼ってある。何もすることがないとき、ぼんやりと椅子に座り、空を眺めたり地図を眺めたりする。 これまで最も遠くに行ったのはスコットランドのスカイ島。英国のフットパスを歩くツアーの最後のコースだ。日…

急がないでいいよ

小学生になった途端、孫は顔が引き締まった。子供部屋には時計がおかれ、登校時間、授業の時間割、塾の予定と、時間と一緒の生活がはじまったのだ。 公園で一緒に遊んでいる時さえ、生意気に「いま、なんじ」と聞く。 一方、私は、時間に追われる夢を見る。…

近くに公園と図書館がある家

今よりも良い家はないかといつも考えている。不動産屋の友人とのおしゃべりで「飯田高原で山小屋風」や「佐賀関半島の砂浜に続く家」など、そのうち探してと頼んでいる。エッセイストの松浦弥太郎氏が「ニューヨークにいた時、近くに図書館と公園がある家を…

木になりたい

火焔山(シルクロードにて) 木になりたい 私は若い頃「大陸の奥深く、丘の上に立ち、一本の木になりたい」と、詩に書いたことがある。 田舎の街で、私なりに出口を探していたのだろうか。その思いは、いつも心の底にあって、機会を捉えては、中国大陸に出か…

服を捨てる

ケニア、街道沿いのバナナ市場 弟から、ばあさんの服を片付けたいと連絡があった。ばあさんとは、最近老人ホームに入った94歳の母親である。弟は誰もいなくなった実家をきれいにしておきたいのだ。母が承知したのか気になったが、弟と二人で取り掛かった。押…

2022年夏、蝶ヶ岳横尾コースを登る

蝶槍から穂高連峰 古い山仲間と、北アルプスにある常念岳・蝶ヶ岳の縦走を計画した。ところが常念岳山荘が、従業員のコロナ感染で休業となり、蝶ヶ岳だけを目指すことにした。 8月21日朝、メンバー4人は、松本駅に集合。JRとバスを乗り継いで上高地へ。上…

雨ヶ池を越えて

梅雨の晴れ間、1人で、長者原から雨ヶ池を越えて、法華院山荘まで歩いた。 湯布院駅から熊本行きのバスに乗り、10時過ぎ長者原に到着。タデ原湿原から樹林に入ると、鳥の声がやかましい。 何度かの大雨で、以前歩いた山道が壊れている。新しい踏み跡を探…

新しい場所

孫がこの春、小学生になった。両親とも働いているので、3月いっぱいまで保育所に行き、4月1日からは、小学校に併設されている学童保育所に移った。誰も知った人がいない場所で、1歳で保育所に入った時のように泣きわめくのではないかと、家族は心配して…

どこででもできる

キリマンジャロ直下のキャンプ 4歳の孫が、トイレから出てこない。のぞいてみると、膝の上に文庫本を広げている。挿絵を見ているのか、楽しそうなのでそのままにしておいた。「出たよ」と呼ぶので行くと、お尻を突き出して「ふいて」と言う。「えっ、自分で…

終わっている

元旦の日本経済新聞「春秋」欄を読んで、もしかして終わっているのでは、と思った。 紙面のトップは「資本主義を創り直す・成長の未来図」。記事によると、日本は、三十年間も実質賃金が増えておらず、国民総貧困化と云われ、非正規雇用者が40%を超え、女…

読書会の後で

読書会の後で、雑談をしていたら「男は優しい女性が好きですから」と、声がした。声の主は60代後半の男性である。その言葉に私は、突然、怒りが湧いた。 「男に好かれる女性」は女性にとって「呪いの言葉」である。呪いの言葉とは、相手を支配しようとする…

台所を汚さない日

「今日は、台所を汚さない、お炊事をしない」と決めた朝は、近所のパン屋のカフェで、チーズオムレツに焼きたてのパンとコーヒーだ。帰りにネットで話題のコンビニスイーツを買おう。夕方は、パソコンを抱えて、マクドナルドに行こう。 時折、我が家の玄関の…

晩酌をやめてみた

晩酌をやめてみた ゆきのさきこ 晩酌をやめて三カ月が経つ。ある日ふと晩酌をやめてみようと思った。特に理由はない。 私はお酒には強い。子供の頃、祖父も父も晩酌をしており、何かにつけお神酒と称して飲まされていた。自分で稼ぐようになると、晩酌が習慣…

八ヶ岳縦走(4泊5日)

コマクサの丘を歩く 八ヶ岳縦走(4泊5日) 7/28(水) 今年の大分労山夏季遠征は八ヶ岳である。参加者は7人。朝5時18分、大分駅から出発、塩尻経由茅野へと向かう。メンバーが事前にJRの『安近短』を調べてくれていたので、乗り換えもスムーズ。1…

雨が好き

サハラ砂漠にロバ。近くに人家があるのか。 ゆきのさきこ 私は雨が好きだ。朝目が覚めたら、まず雨音を確かめる。マンションの6階の我が家では、雨が地面に落ちる音は聞こえないが、雨粒が樹々に当たる音、雨粒同士がぶつかる音などが聞こえて来る。雨どい…

これからは文章修業

この三月に、中小企業診断士の事務所を閉じ、「これからは念願の文学修業に入る」と家族に宣言した。 私は、七十歳になる前後から、これからの日々をどう過ごそうかと考えてきた。出た結論が「文学修業」である。そう、私はこれがやりたかったのだ。ではどう…

 ふたつの小さな花びん

我が家に、手のひらに乗るサイズの陶器の花びんが二つある。一つは玄関でペン差しに、もうひとつは毎朝飲む薬を入れてある。 この花びんは、50年前、私が勤めていた銀行が、信楽、九谷、清水などで焼いたミニチュアの花瓶セットを、何かの記念に預金者や職…

山とお酒はやめられない

別府の街を上から眺めたくなって、秋晴れの続く日、バスと電車を乗り継ぎ、扇山に登った。 登山仲間のおばさん達と登るのもいいが、おしゃべりが多すぎて、肝心の山の様子は覚えていない。だから、最近、私一人で登る山を開拓した。今のところ、鎮南山、霊山…

70代:就職してみた

何を血迷ったか、また就職をした。 毎日一万歩を目標に近場の野山を歩いている私だが、その体力と時間があるのなら、まだ働いた方が良いのではと思っていた矢先、近所の公民館で小学校の「サポート教員」募集のチラシを見つけた。チラシには、年齢のことは書…

70代:何を着ようか

元「暮しの手帖」編集長の松浦弥太郎氏がご自分のエッセイの中で、ニューバランスのスニーカー「990のグレー」を白いソックスで履くのをアメリカンクラッシックと呼んで讃えていた。私は早速、ユーチューブで着こなしの動画を見たりして、明日、ABCマート…

おとなになってもおもちゃ

モロッコ 砂漠の街に猫 ::::::::::::::::::::::::::::::::: おとなになってもおもちゃ ある本によると「産まれたばかりの赤ちゃんは、この世に一人投げ出されて不安なので必死に泣き叫ぶ。そこでお母さんがおっぱいをくれ…

幸せな朝

「こんなことがあんたの幸せなのか、それでいいのか」と、同業の仲間に言われると困ってしまうのだが。 日曜日の夕方、近所にすむ息子から「嫁さんが高熱で、僕も明日は早朝から仕事で、保育園の送り迎えに困っている」とメールが来た。私は「タクシーで私が…

先輩老人たち

先輩老人たち 「年金破綻」「孤独死」「下流老人」など不吉な言葉が飛び交うこの国では、歳をとることが悪いことのように聞こえはしないか。だから探した。私の周りで、世間の役に立ち、みんなに勇気を与えている先輩老人はいないか。 まず、歌声教室のS先生…

老人3人夏山で

老人3人夏山で お盆過ぎの日曜日の朝七時、大分駅前に集合する。今日は佐賀関半島の城山、白木山、高城山、樅の木山の四山を尾根伝いに縦走するのだ。同行は私と70歳代のM氏と80歳前後のI氏の三名。 廃校となった佐賀関高校の近くに車を停め、マムシ避け…

我が家を広げる

我家を広げる 「方丈記」のように山中でひっそりと暮らすのが私の願い。不動産屋の友人に「川のせせらぎが聞こえる、森に中の小さな一軒家があったら」と探してもらっている。 私は今、週二回エアロビクスのレッスンに、大分スポーツ公園まで歩いて通ってい…

一週間は7日間

一週間は7日間 一週間は、7日間を単位とする世界の取り決め。勤めを辞めたら新しい時間の単位で暮らせるかと思ったが、やはり一週間単位だ。 月曜日は、エアロビクス教室。大きな鏡の前で頭から指先まで点検する。前日の登山の疲れをほぐすのにも都合が良…

マリちゃんへ

年賀状の時期になると、短大の寮で、いつも石川啄木の「初恋」を大声で歌っていた真理ちゃんを思い出す。彼女は演劇部に所属し、アルトで太い声を持っていた。その声を生かしてか、背が低かったからか、芝居では少年の役が多く、得意そうに良くこなしていた…