九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

大分百山完登

 大分県は森林が約71%を占める”山の国”である。大分自動車道を福岡方面から日田に入ると左右に連なる山々、釈迦岳など津江日田山群だ。さらに走ると車窓に湧蓋山、由布山、時にはくじゅう連山や祖母・傾山などが遠望できる。

 JR日豊本線で県内を南下すれば、宇佐平野の向こうに院内、耶馬渓、国東半島の山々。大分平野を過ぎると目にちょうど良い高さに姫岳、鎮南山、彦岳などが続く。豊後水道沿岸の山々は、海の照り返しを受けて冬でも明るい。

 「大分百山」は、日本山岳会東九州支部が、1980年に、県内で名前が付いている山が1000余りあり、その中から「姿が美しい山」「地元の人に親しまれている山」「登山、ハイキングができる山」などの条件で100山を選んだもの。私は「登山道もよくわからん、蛇が出る山なんか登らん」と思っていたが、2年ほど前、百山を完登した人の「意外と感動するよ」の言葉に挑戦を決意した。これまで登った山の山頂記念写真と百山のリストと照らし合わてみると、残り28である。山の仲間に「雪野は百山に挑戦する」と宣言し、協力を呼びかけた。

 月に1、2座のペースで登り、最後は今年5月、宮崎県境にある桑原山1400メートルである。登った人の話では百山中、一番の難関との触れ込み。最初から急登、前の人の足を睨みながら這い上がる。「正午までに山頂に着かなければ、引き返す」とリーダーのK氏。「私はこんなことに負けるはずはない」と健気な私。足がつりそうになりながらもなんとか山頂にたどり着いた。山頂にある小さな石の祠に、これまで一緒に登ってくれた人達に感謝して缶ビールをたっぷりかけた。

 登山の慰めは「花」である。春、マンサクの花から始まり、すぐ山桜。祖母山周辺のアケボノツツジが終われば、くじゅう連山がミヤマキリシマに埋まる。足元にはスミレ、イワカガミ、リンドウなど。どれも毎年、一生分堪能したと思うのだが、翌年も誘われればまた行ってしまう。

 役目を終えた村々にも出会う。葛に巻きついた家や神社、朽ちた墓。村ができたのと同じくらい長い時間をかけて、また原野に戻るのである。

 山はまた、イノシシや鹿の栖でもある。イノシシを目にすることはめったにないが、甘い木の根を好むらしく上手に穴を掘っている。鹿は、木の陰から静かにこちらを見つめていたりする。最近は過疎のせいか、鹿やイノシシが増え、田畑を荒らすとか。罠を仕掛けたり、動物避けネットを張ったりと人間も良く応戦している。

 

 私は今年で70歳になる。百山を制覇したこの足を信じて、もうしばらくは新しい景色を見に行こう。近くに住む孫の家にも小走りで行こう。