九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

70代:何を着ようか

 

 元「暮しの手帖」編集長の松浦弥太郎氏がご自分のエッセイの中で、ニューバランスのスニーカー「990のグレー」を白いソックスで履くのをアメリカンクラッシックと呼んで讃えていた。私は早速、ユーチューブで着こなしの動画を見たりして、明日、ABCマートに行って履いてみようと思っていた。

 ところが翌朝、いつものパン屋のカフェコーナーで朝食を取っていると、店の駐車場に止まった車の中から降りてきた青年が、まさにニューバランス990を履いているではないか。上は細身の黒いパンツ、パーカーの裾から派手めの柄シャツがいい具合に覗いている。それに柔らかそうな茶髪が良く似合っている。青年はパンを買うとダイハツの軽に乗って帰って行った。アメリカンカジュアルか、清々しくていいなあと妄想していたら、自転車で黒い服装の小柄な女性がやってきた。 見ると、自転車の前と後ろにそれぞれ座椅子をつけ、そこに小さいヘルメットが二つ。ああ保育園に子供を送って行ったのね。前に乗った子供用の風除けだろう、黄色いポンチョも乗せてある。その女性は黒いブーツに黒いパンツ、黒いジャケット。背中のリュックも黒。後ろでひとつに結んだ短い髪。あの服はアニエスベーではないか。

 パンを買って女性が出ていく時に、窓越しに目で「いいね」を伝えようと思っていたら、キリっと前を向いて走り去った。その姿は一瞬パリの街角を思わせた(目の前に「麺やさっぽろっこ」の看板はあったが)。そうだアニエス・ベーで行こう。きっと私にも似合うだろう。

 松浦氏は、着て行く服はその日会う人への贈り物だとも言っていた。七十代の私からの贈り物か。なんかむつかしくなってきた。