九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

近くに公園と図書館がある家

 

 今よりも良い家はないかといつも考えている。不動産屋の友人とのおしゃべりで「飯田高原で山小屋風」や「佐賀関半島の砂浜に続く家」など、そのうち探してと頼んでいる。エッセイストの松浦弥太郎氏が「ニューヨークにいた時、近くに図書館と公園がある家を探した」と書いていた。私はこの人の衣食住についてのエッセイが好きで、ほとんど読んだ。できる事は真似もしている。

「近くに図書館と公園がある」家かいいなあと思ったところで気がついた。今の私のマンションは、歩いて五分のところに大分市明治明野公民館の図書館があり、裏の駐車場から階段を上ってすぐのところに天然塚公園が広がっている。まさに「近くに図書館と公園がある家」ではないか。

 明治明野公民館の図書館は、職員が1人の小さな図書館。図書の所蔵数は少ないが、自宅のパソコンから市民図書館のデータベースを検索し、貸出手続きをすれば、週2回、本が図書館まで届く。欲しい本はほとんどあるし、気に入った本は読書日記に残す。

 大分市のこの図書サービスとワンコインバスのサービスで、私がこれまでに払った住民税は、取り戻したと感じている。

 天然塚公園は、明野団地の建設時に造成されたもの。元々原生林だったからか、公園課の手入れが良いのか、50年経って、立派な森となった。春には大木のサクラやコブシの花。夏は、ナラやカシの木の緑陰。雨が続くと、スギやクヌギの下はたちまちキノコの森になる。

 私は、孫のところに行く時や毎日の買い物に、遠回りをして公園の中を通る。冬の今はクヌギの落ち葉を踏んで歩く。サクサクという音が、夜になっても耳に残っていてよく眠れる。

 今のマンションは、25年ほど前、バス停が近いことと子供と3人で暮らすのに良い間取りだったので購入した。子供は結婚していなくなり、私は退職して家にいることが多くなり、暮らし方も少しづつ変わっていった。いつの間にか図書館と公園は、私の生活に馴染んでいた。

 これからはもっと読書や散歩の時間を増やそう。不動産屋の友人に、新しい家は探さなくてもいいよと言おう。と思ったところで、いや違う。何か引っかかる。「読書と散歩」は老人向けの雑誌が薦めるお手軽で安易な生き方ではないか。私はそんな手には乗らない。乗るわけがない.