九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

貧しいおばあさんは清々しい

               貧しいおばあさん

 最近、4歳と2歳の孫に受けているのが「むかし、むかし、明野団地に二人の子供がいました」で始まる、兄のレイチ君と妹のふーみんが登場する、我が家オリジナルの昔話である。これに近所に住む貧しいおばあさんが1人加わる。このおばあさんはリュックサックにおむすびを2個入れていつも山に出かける。

 昨年、大分県立図書館主催のストーリーテリング(語り、聞かせ)講座を受けて、日本の昔話や外国の民話をたくさん聞くことができた。日本の昔話は、たいていは、貧しい老人夫婦が出て来て、心優しく正直、お地蔵さんに傘をかぶせるなど良いことをして、ご褒美がもらえるストーリー。時々、欲張りなばあさんも登場するが、それなりの罰を受けて分かり易い。外国の民話には、なぜか賢い子供が出てきて、悪者をやっつける話が多い。

 数年前、「教育資金の一括贈与に関わる贈与税の非課税措置預金」が始まった。小金持ちの老人向け税金対策用か、1.500万円を上限とする孫への生前贈与的な預金制度だ。孫が4人いる未亡人の友人など「肩身が狭いのよ」と嘆いていた。サービスを開始するとき、銀行に「子孫に美田を残さず」のことわざを知る大人はいなかったのか。祖父母の貯金をあてにして大学に行く子は、ろくな大人にならないだろう。

 しかし「下流老人」「老後破産」など老人を貶めることばが溢れ、財産の多寡が人の価値を決める時代にあって、子孫に何を残せばいいのだろう。賢い老人たちを集めて語り合ってみたい。たぶんみんな「お金」と言いそうだ。 

 自分を「貧しいおばあさん」と呼ぶとなぜか落ち着きが良く、清々しい。これからは衣食住も質素を心がけよう。夜は、テレビショッピングなど見ないで、ささやかな晩酌のあとは、月を少し眺めて早めに寝よう。お金のかかる交友関係からは少し遠ざずつかろう。だんだん「方丈記」に近づいて来た。そのうちSNSのプロフィ-ルや名刺も「貧しいおばあさん、明野団地在住」と書こう。 

 今年は、孫にお年玉をあげなかった。代わりにせがまれるままに「我が家の昔話」を聞かせた。貧しいおばあさんのこれからの活躍が楽しみだ。