九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

2018-01-01から1年間の記事一覧

「騎士団長殺し」読む

五月の連休に、村上春樹の「騎士団長殺し」を読んだ。発売は昨年の二月だが、新刊発売の騒ぎが治まるのを待っていた。 今回の主人公は三十代半ばの画家である。何かの理由で妻に去られ、自信をなくし絵も描かずにいる。留守番がわりにと貸してもらった友人の…

みどりが足りない

緑は足りているか。 モノレールから見下ろす東京は、思いの外、緑が多く目が癒される。でもこの高層ビル群で働く人たちをそこに置いて見ると、この緑ではとても足りない。人がはみ出してしまう。そんなことを考えている私は、登山仲間十四人と恒例の夏山遠征…

働く=いのちき

働く=いのちき(2016.9) 昭和38年、中学校の同級生の何人かは集団就職で名古屋に行った。臼杵駅で先生と一緒に見送った。私は羨ましくも寂しくもなかった。その頃の農村はまだ貧しく自分で自分の道を選べる子供はほとんどいなかったと思う。臼杵川の土手…

老年時代を行く

老年時代を行く (2016.8) エアロビクスのレッスンの後で、床に座って余韻に浸っていたら、若い人が「気分でも悪いのですか」と覗き込む。テニスの帰りにラケットを持ってコンビニに寄ったら、店員が「エーッ、まだコートで走れるんですか」と声をあげる。…

冬の贈り物

冬の贈り物 (2018.3) セーターはカシミヤに限る。冬になると引き出しから何枚か出しておく。首に柔らかく、暖かいし、軽くて肩も凝らない。 二十代の頃、いつも良いものを着ている友人がいた。彼女がいるだけでまわりまでおしゃれに見えた。彼女は、子供の…

私のシュウカツ

七十の坂をどう登って行くか(私の終活) (2018.4) 私は、今年七十歳になる。登山でいえば七、八合目である。最後の急登にさしかかり、下界を見下ろすようになる。軽い達成感が心地よく、水分を補給しリュックを担ぎ直して頂上に向かう。 では私は、自分の…

さきちゃんの家出

私のひたいの真ん中に大きなホクロがある。いつか街で占いの人から「お釈迦様と同じところにホクロがありますね」と呼び止められたことがある。「お釈迦様は、家族を捨て国を捨て、放浪の生涯を送った人。男性ならそれで良いが、あなたは女性、大地に根を張…

残念なおじさん

残念なおじさん 男女雇用均等法ができてから30年が経つ。この法律は男女の生き方を少しずつ変えてきた。どの職場でも前面に立って働く女性を見かけるようになった。さらに育児・介護休業法で”イクメン”も増え、家庭の様子も変わってきた。結婚した私の息子…

さきちゃんの手

さきちゃんの手 久しぶりに私を「さきちゃん」と呼んでくれる人ができた。二歳の孫である。母方のおばちゃんもいるので、私は名前で呼んでもらうことにした。 私が身内だとわかるのだろうか「さきちゃん」「さきちゃん」と手を出して来る。顔は家族の誰彼に…

ヒマラヤ・ゴーキョピークに登る

ヒマラヤ・ゴーキョピークに登る 「エベレスト街道を歩きたい。」そう願うようになったのは、作家井上靖氏の「わが一期一会、ヒマラヤ山地にて」を読んでからである。昭和四十六年に氏がヒマラヤ・トレッキングに参加した際の少年シェルパ・ビンジョとの交流…

カフェで朝食

ゴミ出しの朝は、せっかく服を着替えたのだからと近所のカフェに行く。 若いご夫婦が2年前に開店し、朝7時半から、焼きたてパンの朝食を出す。私のお気に入りは、チーズオムレツとマッシュポテト、ロールパン2個そしてコーヒーのセット、500円。コーヒ…

電車の中で本をもらった

「良かったら、この本をもらってください」と、電車の中で、隣の席の男性が 紀伊国屋のカバーのかかった文庫本をくれた。 私は、夕方からの仕事で大分駅から亀川まで行く途中で、持参した本を読んでいた。宗教の勧誘かしらと思ったが、断る理由がとっさに出…