九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

モロッコ追想

 

サハラ砂漠

 モロッコツアーは6日目。ツブカル山に登った後、サハラ砂漠に向かった。ツアーガイドはベルベル人のハミド、もう一人、小型バスの運転手。二人とも観光客から習ったという日本語を少し話す。ハミドは、これから二日間かけて向かうメルズーカの出身である。

 気温は40度を越す。バスは砂と石と枯れ草の中を埃をたてて走る。いつのまにか道は消えていた。同行のメンバーはずっと黙ったままである。はるか遠くに見えるのは山か街か、いや蜃気楼か。怖いところに来てしまった。盗賊やテロリストに襲われたら一巻の終わりではないか。私は思わず「もう帰りたい」と言った。・・・「私は、大分県臼杵市の緑がいっぱいの村で生まれ、きれいな川で遊んで育った女の子」などと意味もなく考えていた。

 (ツアー会社のために弁明すると、バスはGPSを搭載し、スマホで連絡が取れるようになっているので、とりあえずは大丈夫です。)

 

(ハミドの友達)

 ハミドは、自分が育った村の人に仕事を作ってあげたいとツアーガイドになったそうだ。だからであろうか。本当にこれはツアーのコースなの?と疑うようなところに連れて行く。ジープに分乗して灼熱の砂漠での化石拾い。二人のジープの運転手は友達だそうだ。

 ノマド族のテントではミントティをいただく。友達のお母さんのテントらしい。昼食も友達のレストランでピザ。宿泊は、ハミドが小学校を出てからしばらく働いていたというホテル。サハラ砂漠の真ん中。誰も文句など言うはずがない。

 メルズーカの街を出る時、小さなオアシスに立ち寄った。水路が掘られ、畑があり、そこだけが涼しげであった。この水路はJICA(日本国際協力機構)が作ったそうだ。運転手が体を濡らしていた。私はぼんやりと私達の税金が砂漠に消えて行くのをながめていた。

 

(フェズの迷路)

 サハラ砂漠から戻って、最後の目的地であるフェズの街に着く。フェズは城壁に囲まれた古い都市。迷路の中に観光客相手の店が溢れている。私達はお土産を物色しながら路地を歩いた。路上には物乞いが多い。

 その中に、赤ん坊を抱き女の子を一人連れた女の物乞いがいた。スカーフをかぶった女の子の顔を覗き込むと、目が合ってすぐについて来た。路地を曲がっても曲がってもついて来る。同行のA氏が日本語で「来るな」と一喝すると、女の子はさっと止まって離れた。何かあげれば良かったのか。後ろ姿を探したが人混みの中に消えていた。私は女の子の母親が何も貰ってこなかった事を叱りませんようにと願った。モロッコの女性の識字率は70パーセント。外で働いているのは男性ばかりだ。だれも生まれてくる場所を選べない。

 この旅でも物乞いをする子供達にたくさんあった。無表情でそばに寄って来る。現地ガイドに何か上げても良いかと聞いてみたがガイドは応えない。差し出す物を持っている自分が恥ずかしくなった。