九六位山日記(ゆきのさきこ)

私のマンションのベランダから見える山は、九六位(くろくい)山です。雨はいつもこの山を越えてきます。

残念なおじさん

残念なおじさん

       

 男女雇用均等法ができてから30年が経つ。この法律は男女の生き方を少しずつ変えてきた。どの職場でも前面に立って働く女性を見かけるようになった。さらに育児・介護休業法で”イクメン”も増え、家庭の様子も変わってきた。結婚した私の息子は、毎朝、自分で弁当を作っていくようだ。

 まずは人として同じ土俵に立ち、バランスよく役割分担し、子育ても、仕事も楽しめば良いのだ。 

 世の中はおおむね良い方向に向かっていると思うが、まだ少し、残念なおじさんがいる。

 「妻がいなければ生きていけないと思う」と昭和20年代生まれのK氏はいう。夫から「君なしでは生きていけない」と言われた時の妻の全能度はどれほどだろう。

 全能感の中で子育てをし、やがて子供が独り立ちすると「空の巣症候群」が待っている。その後で、夫は死ぬまで自分から絶対に離れられないと気づいた時の幸福感。

 その家庭が幸せならそれで良いのであり、寄り添っている姿は羨ましくもあるが、誰かに依存している人生に不安はないのだろうか。

 だからといって、家庭の手入れを怠ってもいけない。

 飲み仲間の銀行マン、そこそこ仕事ができ、良いお給料ももらっていた。しかし、家庭の手入れが悪いのか、家に帰っても犬しか喜んでくれん、と安酒で酔い潰れて、いつも飲み屋のおかみさんに「もう帰りよ」と怒られていた。

 定年後はまったく見かけなくなったが、どうぞ家で優しくされていますように。 

 何もかも一人でやる必要もないが、何かにつけて「僕は一人で何でもできるよ」と自慢する60歳独身の男性がいる。お金を貯めるのも、家事の段取りも上手い。料理も好きで、自宅に友人を呼んで料理を振る舞う。栗の渋皮煮など絶品だ。

 結婚相手を世話したことがあったが、要求レベルが高く、なかなか承知してくれない。

 彼は、母親をとても大事にしており、旅行に行くと母親へのお土産を忘れない。彼の問題はそこにありそうだ。

 残念なところの全くないおじいさんもいる。

82歳の山仲間。山頂で隣に座って弁当を食べていたら「自分で漬けました」と梅干しをくれた。薄塩で柔らかく甘い。美味しいと褒めると「じゃあ来年は多めに漬けて持ってきますよ」とのこと。聞けば、数年前に奥さんを亡くし一人暮らし。現役では建設技術者。読書家でもあり、山登りの途中での会話は楽しい。料理教室にも通っており、親子丼とカツ丼の作り方の違いを丁寧に教えてくれた。

 彼は、今年7月、念願の富士山ツアーに参加した。登山ガイドが年齢を見て「山頂は諦めてください。行くなら自己責任で」と言ったそうだが、先陣で登頂している。しかし「何も言わせんおじさん」もつまらない。

 行きつけの飲み屋でいつも一緒になる建設会社の社長が「男女雇用均等法ができてから、女子に深夜作業もさせなければならない。昔から男女の役割があったはず」と絡んできた。

「目線をいったん自分の会社から外してみようよ」と言いかけたが、少し酔いが回ってきたので「今度、均等法は女性を幸せにしたかというテーマで勉強してきますね」と言って店を出た。